農と食がつながり
水が支える大町の暮らし
農と食がつながり
水が支える大町の暮らし
全粒粉と地元食材を使う料理を
農業と結びついた暮らしから
全粒粉と地元食材を使う料理を
農業と結びついた暮らしから
取材先: 山麓ファームダイニング 健菜樂食Zen 小田純司さん・美恵さん
取材先: 山麓ファームダイニング 健菜樂食Zen 小田純司さん・美恵さん
10月上旬のある日、大町市にある「山麓ファームダイニング 健菜樂食Zen」へ、香港理工大学の学生8人が視察ツアーに訪れました。Zenは、小麦の全粒粉で作る料理やお菓子を中心に、大町の食材をふんだんに味わえるお店です。
オーナーの小田美恵さんは、学生たちをお店の裏にある畑に案内しながら、自然農法について英語で説明します。かつて化粧品業界に身を置き、外資系企業にも勤めていた美恵さんは英語が堪能です。
このあと作るピザにトッピングする野菜を一緒に収穫しながら、木に残ったブルーベリーを「摘んで食べてみて」と促すと「水で洗いたい」とつぶやいた学生がいました。美恵さんは「農薬や化学物質を使っていないから、うちの土は大丈夫」と、思わず日本語で返します。
Zenは個室3部屋があって、普段は完全予約制で料理を供していますが、この日はテラスで学生たちがピザを仕上げました。全粒粉100%のピザ生地はもちろん、畑で収穫したトマトのソースや、大町産の平飼い卵を使うマヨネーズも自家製です。
「野菜だけでなく、肉も魚も大町産の食材を使います。うちがお出しするのは健康食で、ヴィーガンの方や、塩分や油分を控えたい方にも対応しています」
学生のなかには菜食の人がいましたが、美恵さんの説明を聞いて納得した様子でした。
料理を担当するのはシェフであり夫の純司さん。美恵さんは味噌やシロップ、ドリンクを作り、デザートを担当。「料理も畑も、お互いに協力しながらやっています」と美恵さんは言います。
美恵さんは娘の離乳食をきっかけに全粒粉と出会いました。そして夫婦で全粒粉に特化したカフェを千葉・習志野市で開きますが、東日本大震災で液状化現象による大きな被害を受けます。都会暮らしに見切りをつけて新天地を探していたところ、旅行で訪れた信州に魅せられて、移住を決意します。
山が近く、水の豊かな環境に惹かれ、大町市に住宅と50アールの畑を取得しました。大町市では農業経験のない人でも農地を入手できたのも理由のひとつ。「食」とは切り離せない「農」を、自分たちの手でやってみようと決めていたのです。
「近くに平飼いで鶏を飼う方がいて、自然卵が手に入ったり、近所の方が畑のことを教えてくれたり」。大町の暮らしに農業が溶け込んでいるのを肌で感じる一方で、高齢化を目の当たりにしています。
美恵さんは「食と農をつなげていきたい」と考え、大町市には堆肥センターがあって、食品ロスを減らし、畑と食卓が循環する仕組みがあることなどを教えてくれました。その話の端々から大町への思いがあふれていました。
移住して7年目。美恵さんは長野県の農村生活マイスター、純司さんは大町調理師会会長など、
それぞれが地域に関わるさまざまな役務を引き受けている
健菜樂食Zen
住所 長野県大町市平 6180
電話 090-1706-5391
営業時間 11時30分~14時30分(LO)、17時30分~19時30分(LO)
<完全予約制、要予約2日前>
(本文・データともに2023年12月末時点の内容)
移住して7年目。美恵さんは長野県の農村生活マイスター、純司さんは大町調理師会会長など、それぞれが地域に関わるさまざまな役務を引き受けている
健菜樂食Zen
住所 長野県大町市平 6180
電話 090-1706-5391
営業時間 11時30分~14時30分(LO)、17時30分~19時30分(LO)
<完全予約制、要予約2日前>
(本文・データともに2023年12月末時点の内容)
水道水≒湧水という大町のあたりまえの暮らし
水道水≒湧水という
大町のあたりまえの暮らし
取材先: 大町市上下水道課
大町市の暮らしを支える水道水は、湧水を利用しています。水道水は、水道法が定める消毒処理が必要ですが、これが最低限で済むため、大町市の蛇口をひねれば“ほぼ湧水”が飲めるというわけです。
「日本の水道水の原水は、大半がダムの水で、長野県では河川や井戸の水が使われているところが多いです。大町市ではこれが湧水で、全国的にとても珍しいこと」。大町市の建設水道部上下水道課の齋藤麻理さんが教えてくれました。
大町市内には大小合わせて27の水源があって、そのうち、主だった4つの水源から水道水を供給しています。北アルプスに端を発する白沢・上白沢・矢沢の各水源と、木崎湖東側の丘陵地にある居谷里水源です。なかでも居谷里水源はもっとも古く、大正13(1924)年に整備されました。
水源はどこも標高が高く、水はポンプを使わず自然流下方式で流れます。「むしろ流れる勢いが強すぎて、減圧槽を設けている場所もあります」と齋藤さん。湧水はとてもきれいなので、大きな浄化施設は必要なく、塩素消毒などの必要最小限の設備を介して給水されます。
「水のおいしさは水質と、残留塩素の量ももちろん関係ありますが、温度もあります。湧水は年間を通じて10℃前後。大町の水は冷たくておいしいですよ」
そういう齋藤さんは生まれも育ちも大町。高校を卒業して市外で暮らした際に、地元の水のおいしさに気づいたといいます。「長く住んでいる人より、移住してきた人のほうが水質の良さをわかって、感動されることが多いです」
市街を貫く本通りは旧千国街道にあたり、これをはさんで東側が居谷里水系、西側が上白沢水系に分かれます。東側を「女清水(おんなみず)」、西側を「男清水(おとこみず)」と呼び、どちらも超軟水ではありますが、微妙な味の差を利き分けて、東側にコーヒー店をかまえた人もいます。
歴史をさかのぼれば古代から、仁科三湖で温められた農具川の水を利用して田畑が拓かれ、室町時代までに居谷里の湧水や鹿島川の冷水を引いて、現在のまちの原型が形づくられました。
まちを歩けば、あちこちで水のせせらぎが聞こえ、水場が整備されています。蛇口をひねれば、ほぼ湧水が流れ出ます。悠久の自然と歴史を流れる清冽な水が、大町の暮らしを潤しているのです。
大町の水をボトリングしたもの。大町市で水道が使えるようになって2024年にちょうど100年を数える
(本文・データともに2023年12月末時点の内容)
大町の水をボトリングしたもの。大町市で水道が使えるようになって2024年にちょうど100年を数える
(本文・データともに2023年12月末時点の内容)
取材・執筆 塚田結子(編集室いとぐち)
写真 平松マキ
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