寒暖差と山の水が育む
大町のおいしい農業

寒暖差と山の水が育む
大町のおいしい農業

10月中旬、木崎湖の東岸にあたる稲尾で、無農薬・無肥料のお米を作る山本晃司さんの田んぼを訪ねました。JR大糸線の稲尾駅を背にして立つと、緑色の湖面と山並みを背景にして一面の稲田が広がります。

ほとんどの田んぼが刈り取り後の稲株だけを残すところ、山本さんの田んぼでは稲刈りの真っ最中。晩生種の完熟を待って刈り入れ作業を進めます。

畝間を広く取り、ひと株あたりの本数をおさえて植えた稲は、横にもしっかりと根を張り、強風でも倒れることなく、収穫直前までたくさんの栄養を吸収し続けます。健康なお米だからこそ、農薬に頼らなくても虫や病気に強く、おいしく実るのです。

山本さんは大阪の会社を辞めて農業法人に転職し、2009年に切花農家として独立。合わせて自家用のお米を作りはじめました。当時まだ無農薬栽培は珍しかったものの、周囲には食に関心の高い生産者が多く、教えを乞いながらのはじまりでした。

無農薬栽培で問題になるのは雑草対策です。2001年に合鴨農法を知り、深水除草や米ヌカ除草を併用しながら、栽培面積を少しずつ増やしていきました。やがて、お米のおいしさが口伝てに広がっていきます。

「お花作りも好きでしたが、市場出荷だったので、お客さまからの手応えを感じづらかった。その点、お米は食べる人に喜んでもらえて、その人たちの顔を思い出しながら作れます」。今では全国の100人ほどが山本さんのお米を心待ちにしています。

数年前から合鴨農法をやめ、無肥料栽培にも取り組んでいます。カモのエサや有機肥料の安全性を問われ、思い悩んでのこと。「収穫量が落ちることは予測できましたが、知らぬふりはできませんでした」。今では脱穀後に刻んだワラと自前の米ヌカのみで土作りをしています。

稲尾は居谷里湿原が近く、あちこちから湧く水は人の営みにさらされることなく、田んぼを潤します。「ここは山の水が使えるから、そこは気に入っています。無肥料栽培が、より生きます。雪は多いけど、稲作するなら稲尾で良かった」

冬の間は蔵人として酒造りに加わりつつ、文献を読んでは、次のお米作りに思いをめぐらします。それだけ「お米作りが好きだから」。そして何より「おいしいものを食べたいから」と山本さんは笑います。

松本市出身の山本さんは京都の大学を卒業後、大阪の企業に就職し、大町へやってきて農家に転身した

(本文・データともに2023年12月末時点の内容)

松本市出身の山本さんは京都の大学を卒業後、大阪の企業に就職し、大町へやってきて農家に転身した

(本文・データともに2023年12月末時点の内容)

大町市は、内陸性の気候で寒暖差が激しく、夏は涼しく、雨が少なく空気は乾燥しており、冬は雪が多く、寒さが厳しいのが特徴です。こうした気候は、おいしいりんごが育つ条件に重なります。

雨が少ないうえに北アルプスから吹き下ろす風が湿気を吹き払い、病害虫の発生をおさえます。夏と冬の寒暖差だけでなく、標高が高く昼夜の寒暖差も大きいので、昼に成長し、夜は休んで栄養を蓄えたりんごは、身が締まって日持ちが良く、糖度が高く酸味ののったバランスの良い味になります。

夏の雨の少なさはりんご栽培では利点ですが、近年、推奨されている「新わい化栽培」では根の張りが浅いため、水やりが欠かせません。その点、大町市は縦横に農業用水が流れ、どこも取水は容易です。

峯村農園は黒部ダムに通じる大町アルペンラインとも呼ばれる県道45号沿いに位置します。市内2箇所に畑があり、大原農場は北アルプス水系、三日町農場は居谷里水系の水を利用しています。

3代目の峯村忠志さんは、若手生産者の研修を受け入れ、新わい化栽培などの新技術を導入し、仲間とともに加工所を設けて六次産業化を図るなど、りんご農家を牽引するような存在です。そんな峯村さんも、かつて農業に背を向けたことがありました。

大学院を修了してすぐに就農したものの、先代と意見が合わず家を飛び出し、長野市の会社で働きます。しかし「人の作ったものではなくて、自分の作ったものを売りたい」と思い至り、25歳で家業に戻ることを決めたのです。

「りんごが赤くなる条件は、熟していること、太陽があたること、そして寒くなること。今年はなかなか色がつかなかったけど、最近ようやく赤くなってきました」

収穫時期をむかえると、大原農場の作業場はフル稼働。次々と軽トラで運ばれてくるりんごを、目視で選果して、機械で大きさごとに選別し、袋詰めしていきます。

生食用からはじかれたりんごは作業場に併設した加工所に回され、この日はりんごジュースが作られていました。その間にも直売のりんごを求めて次々と車がやってきます。県外ナンバーが多く、峯村さんも「なんでだろう、SNSの発信が効いているのかな?」と首を傾げます。

電話や来客に応対し、スタッフに仕事の差配をし、自分の作ったものを自分で売る——充実しつつも毎晩遅くまで仕事が立て込み、やや疲れ気味の峯村さんですが「収穫作業は好きです。忙しくても、今は一番楽しい時期です」と顔をほころばせます。

峯村さんにとって収穫時期も楽しいけれど「一番いいのは終わってからの冬かな」

峯村農園

公式サイトはこちら

住所  長野県大町市大町5895-1
電話 0261-22-3454

(本文・データともに2023年12月末時点の内容)

峯村さんにとって収穫時期も楽しいけれど「一番いいのは終わってからの冬かな」

峯村農園

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住所  長野県大町市大町5895-1
電話 0261-22-3454

(本文・データともに2023年12月末時点の内容)

取材・執筆 塚田結子(編集室いとぐち)
写真 平松マキ

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